上島町における「空き家」実態調査 経過報告

生名島・稲浦の海へと下る道。上島町における「空き家」調査の“現在地”は、「空き家」とは何か? という哲学的な問いのある小高い丘に辿り着いているようです。

 企画情報課の平田です。協力隊としての任期初年度も、8カ月が経過しました。私は、町内における空き家の実態調査を、協力隊としての主要な業務のひとつと位置づけています。次年度中には町内全域の調査を終えて報告書をまとめることを目指しています。
 空き家についての調査を本年8月、生名区(生名島)から開始しました。生名での調査は、8月17日から9月23日にかけて、14回に分けて実施しました。調査の対象とした家屋の戸数は920戸でした。ここには、一見しただけでも、現存している建物の構造物をすべて取り壊す以外に、敷地を活用する方途はないだろうとわかる(元)家屋も含まれていますが、作業小屋や工場、公共施設などといった、家屋以外の建造物は含まれていません。
 生名での調査の結果、調査の対象とした920戸のうち161戸(17.5%)を「空き家」と診断しました。あくまで外観からの目視のみでの診断であり、実際には内部の構造物を対象としてより専門的な調査を行わなければ正確な診断はできないのですが、目安として、「利活用可能な空き家」(49戸・30.4%)、「修繕すれば利活用可能な空き家」(44戸・27.3%)、「大幅な修繕もしくは建て替えることが必要な空き家」(42戸・26.1%)、「倒壊の危険性もある空き家」(26戸・16.1%)と、4つのカテゴリーに分類しました。
 診断にあたっては、上水道、下水道、ガスの「ライフライン」、窓、外壁、軒・庇、屋根、雨どい、雨戸・シャッター、カーテンの「建物外観」、門・門扉・施錠施設、フェンス・塀、郵便受けの「敷地周辺」、玄関までの進入路、庭等の雑草、ゴミ・放置物の「敷地内」、そして「売り貸し看板」の計17項目の確認箇所を設定しました。確認箇所のうち、「空き家」と診断した建物において高い割合で異常が認められた項目は、「建物外観」では「軒・庇」(44.1%)、「敷地内」では「庭等の雑草」(62.1%)でした。

丘を登って、ふと振り返ると、絶景。生名島に限らず上島町の島々ではどこでも、視界に海が入っています。

 上島町で生活していると、「空き家が増えた」、「空き家ばかりだ」といった会話をよく耳にします。また同時に、「町民でも空き家が見つからない」という嘆きの声も耳にします。「空き家」は町内にたくさんあるはずなのに、「空き家」が無い。このことから、「空き家」という言葉の使い方として、前者の「人が常態として居住していない」状況を指示する場合と、後者の「所有者が他者に売却し、あるいは賃貸しできる、利活用可能な状態」を指示する場合の2つが存在していることがわかります。そして、前者の「空き家」は多数存在しますが、後者の「空き家」はほとんど存在していない、ということになります。
 前者の「空き家」はあっても、後者の「空き家」、すなわち「利活用可能な空き家」がほとんど存在していない理由として、調査の過程でよくお聞きしたのが、「いずれ、子や孫、親族が町に戻ってきて、家屋を使用する日のために『管理している』」、「仏壇などの物置として使用している」、「盆・正月に親族が集まる」、「敷地内や敷地周辺の畑を耕作しており、耕作時に家屋でお茶などを入れて休憩する」といったものでした。
 上島町への移住者を増やし、定住人口を増加させるためには、「管理されてはいるが、誰かが常住しているわけではない家屋」を、「人が常住する家屋」へと変えるための方策を考えていく必要があります。
 生名区の後には10月末より約1カ月をかけて、佐島区(佐島)において実態調査を行いました。これから、その報告書をまとめるところです。そのあとは、魚島区(魚島、高井神島)、下弓削区・上弓削区(弓削島)での調査を予定しています。
 調査を通して、「空き家」を移住・定住促進政策において利活用していくためには、どのような仕組みや施策が機能するのか、考えています。そして協力隊としての活動期間中に、その仕組みや施策を具体化させる作業に着手できれば、と思っています。
 私は調査時、左手に「空き家カルテ」と私が名付けている調査票と住宅地図のコピーを挟んだバインダー(用箋挟)、右手にペンかカメラを持って、細い路地をうろうろとしています。「怪しい奴」と思われるのは承知の上ですので、どなたでもお姿をお見かけすると、私の方から声をかけさせていただくようにしています。お忙しいところ恐縮ですが、近所に人が住んでいない状態の住居をご存じであれば、お教えいただければ幸いです。

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